日本マクドナルドの藤田元社長は
「人間は12歳のときに食べていたものを死ぬまで食べていく。それをおふくろの味と称している」
と言いました。
でも、
「40歳になったら舌が変わり、日本食が好きになるんだ」
と言ったのがモスバーガーの創業者、櫻田慧会長。

実際のところはどうなんでしょう。
歳を重ねて重ねて重ねた「最後の晩餐」で食べたいものは何でしょう・・・?!
誰も最期までの経験がないのだから、経験からは語りようもありません。

それでも年老いた親の好みを間近で見ていると、いろいろ感じることがあります。

私の父は下戸で、ずっと甘いものが大好きでした。
60代70代になって家にいる時間が長くなると、それに拍車がかかり、お茶の時間を楽しみにするようになりました。
自宅で茶道教室をやっていた母は、父が喜ぶ顔見たさもあってか、70歳を超えてから教室用のお菓子をせっせと手作りするようになり、父もそれを喜んでいました。

ところが80代になると、父はあまりお菓子を食べなくなりました。
それどころか、次第に甘いものは欲しくない、嫌いだとまで言うようになり、私たち娘は実家への手土産にも困ってしまうほど。
嗜好品の好みまで変わるんだなぁと不思議に思ったものです。

その後、介護が必要になった父は、90歳を直前に施設でお世話になるようになったのですが、その際、家族からの申し送りとして、甘いものが好きではないことをお伝えしました。
食欲は旺盛だけど、お菓子の時間もお断りする方向で。
実際、父はお菓子を嫌がりました。

その後2年くらい経って、父は誤嚥性肺炎になりました。硬いものの飲み込みの不安があるため、ミキサー食の食事に変わってしまいました。父は時間がかかる食事に飽きてしまうのか、空腹感はあるようなのに最後まで食べ続けられません。だんだんエネルギー量が減っていき、みるみる痩せてしまいました。
施設からは、カロリー補給のためにおやつの提案があるのですが、何せ甘いものが嫌い。昔は食べていたけれどね…。私たち家族はお断りをしていました。
ところが、ヘルパーさんが試しにと甘いものを口に運んだところ、喜んで食べたという報告が入ってきました。家族としては半信半疑でしたが、牛乳プリンとか、サツマイモのペーストとかを持参して口に運んでみたところ、父は信じられないくらいパクパクと食べたのです。

食べ物の好みが、変わるのです。
それも、どんどん変わり続けている。
お袋の味とか、昔食べた味とか、そういうことがよく言われますが、現実はそんな単純ではなく、好みは変わるのです。
それも何がきっかけなのかもわかりませんが、好きになったり、嫌いになったり。
これは父だけのことなのか。多くの人が実hそうなのか。

エンディングノートには自分の好きなものを書く。最後の晩餐で食べたいものを書く。
もしも自分が弱った時に、書いておけば自分の好きなものを食せるかもしれない。
食べることは最後まで大事な欲望の一つだから。生かされるかもしれないから。
私はそう信じてきたし、そういう話をあちこちでしてきました。
確かにそういう側面もあるでしょう。「好きなもの」「食べたいもの」を書いたことで、それが生かされる事はあるでしょう。

けれども、食べ物の好みが変わることもあるのです。
たとえ好みは変わっても、その後またもとに戻ることだってあるのです。
高齢者の嗜好というのは、とらわれすぎないようにすることも大事だなと、父を見ていて思います。

同時に、今、大好きなものは、いつか食べようと思うのではなく、
大好きな今こそ、食べたほうが幸せなんだということにも改めて気づきます。
昔より好きになった甘いもの、今こそいっぱい食べたい。いっぱい食べたらきっととっても幸せ。
だけど今は太ることも気になるから、なかなか難しいです。